東京地方裁判所 昭和49年(ワ)2270号 判決 1975年8月29日
原告(反訴被告) 学校法人上智学院
右代表者理事 柳瀬睦男
右訴訟代理人弁護士 新井且幸
同 島村芳見
被告(反訴原告) 甲野一郎
被告 甲野二郎
被告両名(反訴原告甲野一郎)訴訟代理人弁護士 菅原克也
同 兼田俊男
主文
被告等は各自原告に対し、一七万一、二〇〇円およびこれに対する昭和四八年一〇月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
原告のその余の請求ならびに反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は本訴、反訴を通じ、全部被告等(反訴原告)の負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 本訴
(一) 原告
被告等は各自原告に対し、一八万七、七〇〇円およびこれに対する昭和四八年一〇月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告等の負担とする。
旨の判決ならびに本案請求につき仮執行の宣言。
(二) 被告等
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
旨の判決。
二 反訴
(一) 反訴原告
反訴被告は反訴原告に対し、一〇〇万円およびこれに対する昭和四九年一月二七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は反訴被告の負担とする。
旨の判決ならびに仮執行の宣言。
(二) 反訴被告
反訴原告の反訴請求を棄却する。
訴訟費用は反訴原告の負担とする。
旨の判決。
第二主張
一 本訴
(一) 原告(請求原因)
1 被告甲野一郎(以下「被告一郎」と略記する。)は昭和四四年三月原告の設置する上智大学理工学部電気電子工学科に入学し、昭和四九年三月二〇日卒業した者であるが、右学科四年次在学中である昭和四八年五月八日氏名不詳の者一名以上と共同して、上智大学校舎三号館および四号館において、別紙のとおり校舎の壁、床等にスプレーでペンキを吹付ける方法で、「学生会解体策動粉砕」、「32単位処分制度撤廃」、「筑波大学法案粉砕」、「森永製品をボイコットせよ」の文字を落書して汚損し、原告に補修費一八万七、七〇〇円相当の損害を蒙らせた。
2 被告甲野二郎は同一郎の入学に際し、昭和四四年三月三日原告との間で、被告一郎の在学中同被告の行為により原告の受ける一切の損害を賠償する旨の損害担保契約を締結した。
3 よって、原告は被告等各自に対し、損害賠償一八万七、七〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一〇月一〇日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 被告等(請求原因に対する認否)
1 請求原因第一項の事実中、被告一郎が原告主張の各日時に上智大学理工学部電気電子工学科に入学し、かつ卒業したことは認めるが、損害の点は不知。その余の事実は否認する。
2 同第二項の事実は否認する。
3 同第三項は争う。
二 反訴
(一) 反訴原告(反訴請求原因)
1 反訴被告の設置する上智大学には、学生の自治組織である学生会が存在し、反訴原告は昭和四七年一一月から昭和四八年一一月まで学生会の会長に就任した。
2 大学当局は昭和四六年以降学生会に対する不当な干渉を強めた。即ち、昭和四七年六月学生会の会長選挙において訴外乙山五郎が学生会長に選出されるや、同人が大学当局の意に添わない者であったところから、同人が三二単位制(連続する二ヶ年において修得した科目の合計が三二単位に達しない場合は退学させる制度)により除籍退学になっていることを挙げ、学生の自治を一切認めないとの立場から、乙山を正式の学生会長とは認めず、学生会もまた正規のものとは認め難いとし、学生から徴収した学生会費を凍結し、更に徴収事務を停止する等の行為を繰返えした。
3 昭和四七年一一月反訴原告が学生会長に選出されたが、反訴原告も大学当局の意に添はない者であった。ところが、大学当局は当該選挙および反訴原告個人の問題について干渉する口実がないため、反訴原告に対し二項目確認要求(学生会活動の正常化の条件なる二項目の確認が得られるならば、学生会長と認める。)を押付け、これを確認しない以上、反訴原告を学生会長と認めないといい出した。そこで、反訴原告は大学当局に話合を要求したが、拒否され、その後大学当局より継続的に個人攻撃を受けるようになった。
4 しかるところ、反訴被告の理事で上智大学の学長である訴外守屋美賀雄はその職務の執行として、昭和四八年五月一六日告示第二号なる文書を学生等多数に対し掲示、配布し、その中で、反訴原告等が三号館校舎内等合計七四ヶ所に亘り「32単位処分制度撤廃」等の文字を落書し、大学に一八万七、七〇〇円相当の損害を与えたので損害賠償を求める措置をとった旨の事実を公表した。
5 右事実の公表は、反訴原告を中傷することによって学生会の自治活動に対する妨害を加える意図のもとに、事実の調査も十分行うことなく、なしたものである。
6 反訴原告はこれにより著るしく名誉を毀損され、すくなくとも一〇〇万円相当の精神的損害を蒙った。
7 よって反訴原告は反訴被告に対し、慰藉料一〇〇万円およびこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和四九年一月二七日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 反訴被告(請求原因に対する認否)
1 反訴請求原因第一項の事実中、反訴被告の設置する上智大学に学生の自治組織である学生会が存在することは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同第二項の事実中、大学当局が乙山を学生会の会長として承認しなかったこと、学生から徴収した学生会費を凍結し、更に徴収事務を停止したことは認めるが、その余の事実は否認する。大学当局は、学生会からの代理徴収願に基き、学費徴収の際、同時に学生会費を徴収してきたが、昭和四六年度分の一部と昭和四七年度分は学生会に払出さず、昭和四八年二月学生(その父兄等費用負担者)に返済し、昭和四八年度分については徴収事務を停止した。これは学生会の運営が正常でなかったからである。
3 同第三項の事実は争う。
4 同第四項の事実は認める。
5 同第五項の事実は否認する。
6 同第六項の事実は争う。
7 同第七項は争う。
8 (反訴被告の反論)
告示による事実の公表はなんら違法ではない。
(1) 反訴原告等による落書の事実は真実である。このことは守衛が現認し、反訴原告も自認していた。
(2) 反訴原告の行為は学則に違反し、かつ犯罪を構成する。即ち、反訴原告は在学中、大学の教育綱領を重んじ、学則、法規則を堅く守って学習することを誓約した。課外活動の広報活動については、掲示(学生課外活動規定第一六条)、立看板(同規定第一七条)、印刷物の配布(同規定第一八条)等の方法が認められており、特に掲示は「学生会諸規則にしたがって学生会の指示する場所において行なう。掲示には責任者、団体の名称を明記し、学生会の押印を必要とする。」(同規定第一六条)。しかるに、反訴原告は右正規の方法によらず、勝手に指定場所以外の建物に落書した。また、右落書は著るしく建物の美観を損ね、かつ原状回復に多大の労力と費用を要する程度のもので、その効用を減損させるものであって、建造物損壊罪ないし軽犯罪法第一条第三三号違反に該当する。
(3) 以上のとおり、反訴原告の行為は学則に違反し、犯罪を構成するものであって、大学の教育研究の場の秩序を乱し、施設に損害を与えるものであった。大学当局は、学生および教職員のため教育研究の施設を保全し、秩序を維持し、もって優良な教育研究環境を作る責務を有するが故に、反訴原告の行為を放置することはできなかった。まして、それが犯罪に該当するものであれば、社会一般の立場からも放置しえない。そこで、大学当局は前記責務を全うすべく、落書をした反訴原告等に反省を求めるとともに、他の一般学生に対する警告を行う意味で告示を出したものである。大学当局の措置になんら違法の廉はない。
第三証拠≪省略≫
理由
第一 本訴について。
一 (被告一郎の在学関係)
被告一郎が昭和四四年三月原告の設置する上智大学理工学部電気電子工学科に入学し、昭和四九年三月二〇日卒業したことは当事者間に争いがない。
二 (被告一郎が落書を行ったか)
(一) 落書の発生。
≪証拠省略≫によれば、昭和四八年五月八日午後八時頃、上智大学校舎三、四号館の壁等に別紙のとおり、「学生会解体策動粉砕」、「32単位処分制度撤廃」、「筑波大学法案粉砕」、「森永製品をボイコットせよ」の文字が落書されたこと(但し、別紙19の落書のうちの一つは「筑波大学法」とあるのみで、「案粉砕」の文字を欠いている。)、右落書は赤、青、緑三色のスプレー式ペイントを、文字を切抜いた型紙に吹付ける方法でなされたものであること、右落書の数は四三ヶ所であることが認められる(以下これを「本件落書」という。)。
前記甲第二号証の一ないし二二の写真に写っている落書は四九個であるが、甲第二号証の四は同号証の三の一部と、また同号証の八の一部は同号証の六の一部とそれぞれ重複する写真であると認められるから、当該重複部分を差引くと、本件落書の個所ないし個数は前認定のとおり四三となる(この差引の関係を別表備考欄に負数で表示する。)。また、前記甲第一号証中、三、四号館の落書個所三九と記載してある部分は、≪証拠省略≫によると、本件落書の修理をした業者が費用の見積に当って集中している数文字を一ヶ所として取扱ったものであると認められるから、右記載部分は前認定を左右する資料とし難い。他に前認定を左右するに足る証拠はない。
(二) (落書と被告一郎との結付き)
≪証拠省略≫によれば、次の事実を認めることができる。
1 昭和四八年五月八日午後八時守衛訴外内田清作および警備会社派遣のガードマン四名がそれぞれ一時間の巡回に出発したが、出発時までに落書事故の通報はなかった。
2 内田は巡回中、四号館に入るとシンナー様の臭気を感じたので、昇降機で四号館五階に昇り、同階の廊下に出た。すると、被告一郎が学長研究室の扉に向って中腰になり、右手に何かを持って、ものを書くような姿勢で立ち、他の氏名不詳者一名が反対側の壁に向って立っているのを発見した。時刻は午後八時四五分頃であった。内田は被告一郎等に近付きながら、「君達は今頃何をやっているんだ。」と声をかけたところ、被告一郎等は足許に置いた鞄を持って一目散に逃出した。内田はその跡を追ったが見失ったので、応援のガードマン村上某とともに三号館一階中央階段付近で待伏せしていたところ、前記氏名不詳者が出てきたので、村上が守衛所に連行した。間もなく被告一郎が階段を降りてきたので、内田が「用があるから一寸来い。」といって被告一郎の手をつかんだところ、同被告がこれを振切って中庭に駆け出したので、追跡し、折柄他所を巡回中のガードマン二名と協力して被告一郎を捕えた。
3 守衛所に連行された被告一郎は落書をしたことを否認する一方、「ああやって学友に訴えるほかない。」とも述べていた。
4 被告一郎の手には赤、青、緑のペイントが着いており、また前記鞄の中からシンナーの臭気が感じられた。
このように認められる。≪証拠省略≫のうち被告一郎他一名の者が「学長研究室前で30cm平方大の文字を切抜いた型紙でスプレーで落書中」であった旨の記載部分は真実に合うものとは認め難く、また被告一郎本人の供述中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
以上認定の事実を総合すれば、被告一郎他一名は共同して(落書が四三ヶ所に及んでいる事実からすれば、更に加担者が何名かいたと推認される。)本件落書をしたものと認めるのが相当である。
なお、≪証拠省略≫よれば、八時五〇分頃原告理事長より守衛所に対し、「三、四号館で落書をしている者があると国際部の学生から報らせがあったから調べる様に」との指示があったことが認められる。八時五〇分頃といえば、被告一郎他一名が既に内田に発見されて、逃走中の時刻であるが、通報者が落書を現認した時刻は理事長が守衛所に調査を指示した時刻よりある程度前であろうから、通報にかかる落書行為者の中に被告一郎他一名を加えて理解しても、矛盾はない。
三 (権利侵害)
≪証拠省略≫によれば、上智大学施設管理規程において、「学長は、理事会から委任を受け、大学施設の管理を総括する。」(第四条第一項)旨定められていることが認められる。当該規定から明らかなとおり、上智大学の施設の管理権は、元来、同大学を設置する原告に帰属する。そして、≪証拠省略≫によると、管理の内容は施設使用の規制、環境の保全、保安および機能の維持等から成り、管理の目的は教育研究活動の健全な発展に資することにあること、環境保全の一環として、「大学施設内における掲示は、あらかじめ許可を受け、指定の場所に行なうものとする。」(前記規程第九条第三項)と定められていることが認められる。このように原告に属する大学施設の管理権は、一の財産権として対世的に保護されるべき法益であることは疑いの余地がないのみならず、学生に対す関係においては、契約に基づき、その不可侵を要求しうるものであるとみなければならない。即ち、私立大学における学生と大学との関係は、その成立、終了および内容の全般に亘り、私法上の就学契約によって規律され、右契約において、学生は大学の決定した学則その他の諸規則によって包括的に規制されるものであるところ(この意味において就学契約は一の附合契約たる性質を有する。)、本件においても、≪証拠省略≫によれば、被告一郎は入学に際し、昭和四四年三月三日学長に対し、「在学中貴大学の教育綱領を重んじ、諸規則を堅く守って学習することを、誓約します。」との誓約書を差入れ、前記の関係を確認しているのである。従って、被告一郎は大学との間の就学契約に基づき、前記施設管理規程上定められている原告の大学施設管理権を尊重し、かりにもこれを侵害することのないように義務付けられていると考えるのが相当である。本件落書は前記施設管理規程第九条第三項所定の許可を得ないでなされた掲示としての性質をもち、これを行った被告一郎の行為は落書の手段方法、態様に照らし明らかに原告の管理権を侵害し、不法行為を構成する。
四 (損害)
≪証拠省略≫によれば、本件落書の修補費用は一七万一、二〇〇円であると認められ、原告は右費用額相当の損害を蒙ったものとすべきである。原告は損害額は一八万七、七〇〇円であると主張するが、その根拠となったと目される≪証拠省略≫に見積額として計上されている一八万七、七〇〇円の中には原告が被告一郎の行為と主張していない二号館、会館、L号館の落書八ヶ所の修補費用も含まれているのであるから、原告の主張中一七万一、二〇〇円を越える部分は採用できない。
五 (被告甲野二郎の責任)
≪証拠省略≫によれば、被告甲野二郎は同一郎の入学に際し、昭和四四年三月三日原告との間で、被告一郎の在学中同被告の行為により原告の受ける一切の損害を賠償する旨の損害保証契約を締結したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
六 むすび
以上によれば、被告等は各自原告に対し、損害賠償として一七万一、二〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一〇月一〇日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第二 反訴について。
一 (事実の公表)
反訴被告の理事で上智大学の学長である訴外守屋美賀雄がその職務の執行として、昭和四八年五月一六日告示第二号なる文書を学生等多数に対し掲示配布し、その中で反訴原告等が三号館校舎内等合計七四ヶ所に亘り「32単位処分制度撤廃」等の文字を落書し、大学に一八万七、七〇〇円相当の損害を与えたので、損害賠償を求める措置をとった旨の事実を公表したことは当事者間に争いがない。
二 (行為の適否)
(一)1 前記第一の二、四の認定事実によれば、公表された事実は真実である。ただ、落書が七四ヶ所に亘るとした部分および損害額が一八万七、七〇〇円であるとした部分はその一部に真実に合わないものがあるが、公表された事実の内容において落書の数如何は行為の属性にすぎず、損害の額も行為の本質に深くかかわるものではなく、それらの点において正確を欠くからといって反訴原告の行為に対する一般の評価を左右させるほどのものとは認め難い。
2 反訴原告の行為が上智大学施設管理規程に違反し、原告の施設管理権を侵害したことは前述のとおりである(反訴被告は更に学生課外活動規定の違反をいうが、右規定は、原則として学生会((後述する))の責任のもとにある学生の課外活動について行われる広報活動に関するものであって、これによって反訴原告の行為を律することは適当でない。また、本件においては、反訴原告の行為が反訴被告主張の犯罪を構成するかどうかは判断しない。)。
3 ≪証拠省略≫によれば、前記告示形式による事実の公表は、教育研究施設の環境を保全する責務を有する大学当局が、反訴原告等に対し、その行為についての評価を明示するとともに、他の一般学生に向け同種の行為に出ないよう警告する目的でなされたものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
以上1ないし3で述べたところを総合すれば、前記告示形式による事実の公表はなんら違法の廉はないとすべきである。
(二) この点に関する反訴原告の主張について検討する。
≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。
上智大学には、学生の自治組織である学生会が存在する(この事実は当事者間に争いがない。)。昭和四七年六月学生会の会長選挙において訴外乙山五郎が会長に選出されたが、大学側は乙山が三二単位制(連続する二ヶ年において修得した科目の合計が三二単位に達しない場合は退学させる制度)により除籍退学になっていたため、同人を学生会の会長として承認せず(上智大学学生会会則第五条によれば、会長の選挙に関しては学生部を通じ学長に報告し、その承認を得なければならない。)、同人によって代表、統轄される学生会の活動もまた認められないとし、従って、学生の課外活動費の配分、支払について責任ある執行者を欠いているとの理由から、昭和四七年度に徴収した課外活動費の残額を学生の保証人に対し返還し、昭和四八年度は課外活動費の代理徴収事務を停止した(大学当局が乙山を学生会の会長として承認しなかったこと、学生から徴収した学生会費を凍結し、更に徴収事務を停止したこと((但し、年度の点を除く))は当事者間に争いがない。)。これに対し、学生側は、三二単位制の被適用者が昭和四六年以来の学費値上撤回運動に参加した者によって占められており、大学側の叙上のような諸措置は学生の自治活動に対する不当な干渉であるとし、大学側と鋭く対立していた。
このような状況のもとで、昭和四七年一一月再び学生会の会長選挙が行われ、反訴原告が会長に選出された。これに対し、大学当局は同月三〇日学生活動が正常化するための前提条件として、「一、上智大学学生の入学、卒業、退学、休学、復学および処分は、学則に基づき明文化されている規定にしたがって、教授会の審議を経て大学が、これらを決定し、学生にはこれらの決定権はない。一、現行の学生会則が存続する限り、学生会長は、この会則を厳守し、また一般会員に対しては、これを厳守させるように学生会長は努力する。殊に上智大学学生会は、大学が本学学生であると認定している者のみを以て組織し、退学者を含む学外者は学生会員となれない。」という二項目の確認を反訴原告に求め、右確認がなされた後に反訴原告を学生会長として承認する旨表明した。反訴原告は、右要求は学生会長に対し、大学の決定をひたすら学生に守らせる役割を押付けるものであり、学生自治と全然相容れないものであるとして、確認を拒否し、大学側に対し公開討論会への出席や各種の交渉を要求した。しかし、大学側は反訴原告を正規の学生会長として認めず、それらの要求をことごとく拒絶する態度に終始した。
このように認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれば、大学側と反訴原告との間に、反訴原告の学生会長就任を廻り深刻な抗争が存在していたことが明らかである。
しかし、進んで本件事実の公表が反訴原告を中傷することによって学生の自治活動に対する妨害を加える意図のもとに、事実の調査を十分行うことなくなされたものである旨の反訴原告の主張事実はこれを肯認するに足る証拠はない。
三 (むすび)
従って反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
第三 以上説明したところによれば、原告の本訴請求は、被告等各自に対し一七万一、二〇〇円の損害賠償およびこれに対する昭和四八年一〇月一〇日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、反訴原告の反訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蕪山厳)
<以下省略>